介護現場における「医行為」と「グレーゾーン」の完全ガイドと判断事例集
日々の業務の中で「これは介護職がやっていいことなのか?」と迷う場面に遭遇することは、介護従事者にとって大きなストレスとなっています。
本記事では、いわゆる「介護のグレーゾーン」について、厚生労働省の通知や法的根拠に基づき、具体的な事例を交えながら、現場で迷わず判断するための知識を網羅的に解説します。
介護における「グレーゾーン」とは何か
介護現場において、医療行為と生活支援の境界線が曖昧になりやすい領域について、その定義と背景を解説します。
介護の仕事をしていると、利用者様の健康管理に関わる場面が多々あります。
しかし、日本の法律(医師法第17条)では「医師でなければ医行為をしてはならない」と定められており、原則として介護職員が医療行為を行うことは禁止されています。
この「医行為」と「日常的なケア」の境界線上にあり、判断に迷う行為の総称が、いわゆる「介護のグレーゾーン」と呼ばれています。
かつては、体温測定や軽微な切り傷の処置でさえ「医行為に当たるのではないか」という議論があり、現場は混乱していました。
しかし、高齢化社会の進展に伴い、介護職が担うべき役割が拡大し、過度な規制が利用者の生活の質(QOL)を下げてしまう懸念が出てきました。
そこで、厚生労働省は平成17年(2005年)に通知を出し、原則として医行為には当たらない行為を明確化しました。この通知が、現在の判断基準のベースとなっています。
ただし、この通知が出たからといって全ての迷いが解消されたわけではありません。
「原則として医行為ではない」とされたものでも、利用者の容態や状況によっては「医行為」とみなされる場合があるからです。この状況判断の難しさが、依然としてグレーゾーンの問題を複雑にしています。
平成17年通知で明確化された「医行為ではない行為」
厚生労働省の通知に基づき、介護職員が実施しても法的リスクが低いとされる具体的な行為について詳しく見ていきます。
平成17年7月26日に厚生労働省医政局長より発出された「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」は、介護業界にとって画期的な指針となりました。
ここでは、介護職員が行っても「医行為には該当しない」と整理された具体的な項目について解説します。
これらは、あくまで「利用者の容態が安定していること」が前提条件となりますが、日常的なケアとして認められています。
水銀体温計・電子体温計による体温測定
かつては医療的な判断が必要とされる場面もありましたが、現在では、わきの下や耳で測定する一般的な体温計の使用は医行為ではないとされています。
ただし、測定結果に基づいて「解熱剤を投与する」といった判断や、医学的な診断を行うことは禁止されています。
あくまで「数値を測定し、記録・報告すること」が介護職の役割です。
自動血圧測定器による血圧測定
手首や上腕にカフを巻いてボタンを押すだけの自動血圧計による測定も、医行為には当たりません。
しかし、聴診器を使用して血管音を聞き取る「聴診法」による血圧測定は、高度な技術と判断を要するため、基本的には看護師などの医療職が行うべき行為とされています。
数値の異常が見られた場合は、即座に医療職へ報告する必要があります。
パルスオキシメーターの装着
指先に装着して動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するパルスオキシメーターの装着も、医行為には該当しません。
ここでも重要なのは、測定値を見て「酸素流量を調整する」などの行為は医療行為になるため、介護職は絶対に行ってはならないという点です。あくまで装着と数値の確認のみが許可されています。
軽微な切り傷、擦り傷、やけど等の処置
専門的な判断や技術を必要としない、絆創膏を貼る程度の処置は可能です。
また、汚染されたガーゼを交換する行為も認められていますが、傷口が深く縫合が必要な場合や、化膿している場合、広範囲のやけどなどは医療処置が必要となるため、医師や看護師の指示を仰ぐ必要があります。
軟膏の塗布・湿布の貼付
皮膚に異常(褥瘡や化膿など)がない箇所への軟膏塗布や、湿布を貼る行為は医行為ではありません。
保湿クリームや、医師から処方された軟膏を塗ることは日常的なケアの一環です。
ただし、褥瘡(床ずれ)の処置に関しては、そのステージや状態によって判断が分かれるため、後述する項目で詳しく解説します。
点眼薬の点眼
医師から処方された点眼薬、または市販の目薬を点眼する介助は可能です。
ただし、白内障の手術直後など、眼球の状態が不安定で感染リスクが高い時期の点眼に関しては、医師の指示に従い、慎重な対応が求められます。基本的には「状態が安定している」ことが条件です。
一包化された内服薬の服薬介助
あらかじめ一回分ずつ袋分け(一包化)された薬を、利用者の口に入れたり、手渡したりする行為は医行為ではありません。
しかし、錠剤を粉砕したり(クラッシュ)、カプセルを開封したりする行為は「調剤」にあたる可能性があるため、薬剤師や医師の指示なしに介護職が独断で行うことは避けるべきです。
坐薬の挿入・浣腸
排便コントロールのためのグリセリン浣腸や、解熱鎮痛のための坐薬挿入も、条件付きで認められています。挿入するだけで効果を発揮するものであり、高度な技術を要しないものが対象です。
ただし、連続して行う必要がある場合や、挿入時に抵抗・出血がある場合などは直ちに中止し、医療職へ引き継ぐ必要があります。
爪切り・爪やすり
爪切りは、日常的な身だしなみを整える行為として認められています。
ただし、これも「爪そのものに異常がない」ことが条件です。
巻き爪が皮膚に食い込んで炎症を起こしている場合や、爪白癬(爪水虫)などの疾患がある場合、糖尿病により末梢神経障害があり感覚が鈍麻している利用者の爪切りは、医療的な管理が必要となるため、医行為とみなされる可能性が高くなります。
口腔ケア
歯ブラシや綿棒を使った歯、口腔粘膜、舌の清掃は医行為ではありません。しかし、重度の歯周病で出血しやすい場合や、誤嚥のリスクが極めて高い場合の口腔ケアは、慎重に行う必要があります。
耳垢の除去
耳垢塞栓(耳垢が詰まって聞こえなくなっている状態)を除去する場合を除き、耳の入り口付近にある耳垢を綿棒などで除去する行為は医行為ではありません。
奥深くまで器具を入れる行為は鼓膜を傷つける恐れがあるため禁止されています。
ストマ装具のパウチにたまった排泄物の廃棄
人工肛門(ストマ)のパウチ(袋)に溜まった便を捨てる行為は可能です。
また、肌に接着しているパウチそのものを交換する行為についても、肌の状態が安定していれば介護職が行うことが可能です。ただし、ストマ周辺の皮膚がただれている場合などの交換は医療的処置が必要となります。
「医行為」とみなされる禁止行為の具体例
介護職員が絶対に行ってはならない、明確な医療行為について再確認し、コンプライアンス意識を高めます。
前述の通り、規制緩和は進んでいますが、依然として介護職には絶対に禁止されている行為があります。
これらを行うことは医師法違反となり、利用者様の生命に関わる事故につながる恐れがあるため、厳格に区別する必要があります。
インスリン注射・血糖値測定
糖尿病患者へのインスリン注射は、医療行為の代表格です。利用者自身が自分で注射(自己注射)を行う際の見守りや、準備の手伝いは可能ですが、針を刺す、薬液を注入するといった行為は介護職が行うことはできません。
同様に、針を刺して血液を採取する血糖値測定も医行為です。
ただし、一部の新型測定器において、針刺しを伴わないタイプのものについては議論が進んでいますが、現状では原則不可と考えて行動するのが安全です。
摘便(てきべん)
指を肛門に入れて硬くなった便をかき出す「摘便」は、直腸壁を傷つけたり、迷走神経反射により血圧低下や徐脈を引き起こしたりするリスクが高い医療行為です。
浣腸や坐薬の挿入は認められていますが、摘便は看護師や医師が行うべき行為とされています。
現場では便秘に苦しむ利用者様を見て「なんとかしてあげたい」と思う場面もあるかもしれませんが、リスク管理の観点から介護職が行うべきではありません。
褥瘡(床ずれ)の処置
初期段階の発赤程度の皮膚への保湿剤塗布などは可能ですが、皮膚が破れている、壊死組織がある、浸出液が出ているといった「褥瘡」の治療的な処置は医行為です。
ガーゼ交換や洗浄、薬剤の塗布などは看護師の指示のもと、看護師が行うのが原則です。
経管栄養の「開始」と「終了」の判断(法改正以前の認識として)
これについては後述する「喀痰吸引等研修」との兼ね合いがありますが、原則としてカテーテルの挿入や、栄養剤注入の開始判断、速度調整などは医療的な知識が必要です。
特にチューブが胃に正しく入っているかの確認は、誤って肺に入っていれば死に至る危険性があるため、極めて重要な医療行為です。
状況によって判断が変わる「真のグレーゾーン」事例

許可された行為であっても、利用者の状態によって禁止されるケース、いわゆる「コンテキスト(文脈)依存」の判断基準を解説します。
ここが最も現場が悩むポイントです。
「爪切りはOK」と教わったのに、先輩から「あの利用者さんの爪は切っちゃダメ」と注意された経験はないでしょうか。これは、行為そのものではなく「対象となる利用者の状態」によって、医行為かどうかが変化するからです。
事例1:糖尿病患者への爪切り
【状況】
利用者A様は糖尿病を患っており、足の指先にしびれ(神経障害)があります。爪が伸びていますが、少し巻き爪気味です。
【判断】
この場合の爪切りは「医行為(原則禁止)」と判断すべきです。
理由は2つあります。
まず、糖尿病の方は感染症にかかりやすく、一度傷ができると治りにくい上、最悪の場合、足の壊死(えし)につながるリスクがあります。
次に、神経障害があるため、深爪をして皮膚を傷つけても本人が痛みに気づかない可能性があります。
さらに巻き爪の処置は出血を伴うリスクが高いため、専門的なフットケアが必要となります。したがって、看護師や医師、あるいは医療的なフットケア研修を受けた専門職に依頼する必要があります。
事例2:市販薬の使用と貼付
【状況】
利用者B様が「腰が痛いから、家族が持ってきた市販の湿布を貼ってほしい」と依頼してきました。
【判断】
この場合は「条件付きで可能(グレー)」です。
市販の湿布を貼ること自体は医行為ではありません。
しかし、介護職が独断で「腰痛にはこの湿布がいいですよ」と勧めたり、常備薬以外の薬を使用判断したりすることは診断・治療類似行為になりかねません。
家族や本人からの明確な依頼があり、かつ皮膚に異常がない場合に限り、お手伝いとして貼ることは可能です。
ただし、その湿布の使用について主治医や看護師に「使用して問題ないか(飲み合わせや皮膚状態など)」を確認しておくことが、リスク管理として推奨されます。
事例3:軟膏塗布と褥瘡(じょくそう)
【状況】
利用者C様のお尻に赤みがあり、少し皮膚がむけています。処方されている軟膏を塗ってほしいと頼まれました。
【判断】
これは「看護師への相談が必要(限りなく黒に近いグレー)」です。
単なる乾燥による肌荒れであれば軟膏塗布は可能です。
しかし「皮膚がむけている」状態は、褥瘡のステージが進んでいる可能性があります。その傷口に対して、以前処方された軟膏が適切かどうかは医学的な判断が必要です。
もし細菌感染していれば、密閉するような軟膏の塗り方は症状を悪化させるかもしれません。
まずは看護師に患部を確認してもらい、指示を仰ぐのが正解です。
事例4:認知症の方への服薬介助(口の中に手を入れる)
【状況】
認知症の利用者D様が薬を飲み込もうとせず、口の中に溜め込んでいます。口を開けさせて指でかき出す、あるいは奥へ押し込む必要があります。
【判断】
これは「危険性が高く避けるべき」です。
誤嚥(ごえん)のリスクが極めて高いほか、利用者に指を噛まれる事故や、無理やり口を開けることによる虐待の疑念を招くリスクがあります。
これは医行為の定義以前に、ケアの方法として不適切となる可能性が高いです。
服薬ゼリーの使用や、医師への相談による剤形の変更(シロップなど)を検討するなど、アプローチを変える必要があります。
法改正により可能となった「喀痰吸引」と「経管栄養」
特定の研修を修了した介護職員だけが実施できるようになった医療的ケアについて、その制度と条件を整理します。
「社会福祉士及び介護福祉士法」の改正(2012年4月施行)により、これまで医療行為として禁止されていた「喀痰吸引」と「経管栄養」が、所定の研修(喀痰吸引等研修)を修了し、都道府県知事から認定証の交付を受けた介護職員(認定特定行為業務従事者)に限り、実施できるようになりました。
対象となる行為
-
喀痰吸引:口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部
-
経管栄養:胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養
実施のための厳格な要件
この緩和は「誰でもできるようになった」わけではありません。以下の条件が必須です。
-
個人の要件:基本研修(講義・演習)と実地研修を修了していること。
-
事業所の要件:「登録喀痰吸引等事業者」として都道府県に登録されていること。
-
医師・看護師との連携:医師の指示書や、看護師との連携体制、緊急時の対応マニュアルが整備されていること。
研修を受けていない職員が「見よう見まね」で行うことは、完全な法律違反となります。
また、研修修了者であっても、利用者の状態が急変した場合などは実施を中止し、医療職へ連絡する義務があります。
介護職が身を守るためのリスクマネジメントと連携
グレーゾーン業務におけるトラブルや事故を防ぐために、現場で徹底すべきコミュニケーションと記録の重要性について解説します。
グレーゾーンの行為を行う際、最も恐ろしいのは「良かれと思ってやったことが、結果的に利用者の健康を害し、訴訟や責任問題に発展すること」です。
自分自身と事業所を守るためには、以下の3つのポイントを徹底する必要があります。
1. 「ホウ・レン・ソウ」の相手は必ず「医療職」へ
介護職同士で「これくらい大丈夫だよね」と判断するのは危険です。グレーゾーンの行為を行う前には、必ず看護師や医師に確認をとりましょう。
「〇〇さんの爪が伸びていますが、切っても大丈夫でしょうか?」「皮膚に少し赤みがありますが、いつもの軟膏でいいですか?」といった確認を一つ挟むだけで、責任の所在が明確になり、ケアの安全性も担保されます。
2. 記録への明記
実施したケアの内容だけでなく、「誰の指示で行ったか」「実施前の状態(皮膚の状態、バイタルなど)」「実施後の状態」を詳細に記録に残します。
「看護師〇〇の指示により実施」「実施中、痛みの訴えなし」といった記録は、万が一トラブルが起きた際に、適切な手順を踏んでいたことの証明になります。
3. 家族への説明と同意
家族から「便を出してほしい(摘便してほしい)」「痰を取ってほしい」など、医行為に当たる要望を受けることがあります。
この時、「できません」と断るだけでは信頼関係を損ねます。「法律で医療行為と決められており、危険が伴うため介護職には禁止されています。
看護師がいる時間に相談するか、訪問看護の利用を検討しましょう」と、「できない理由」と「代替案」をセットで説明するスキルが求められます。
まとめ:利用者の安全を最優先した「プロの判断」を
介護のグレーゾーンは、法制度の変更や利用者の個別性により、常に揺れ動く難しい領域です。しかし、根本にある判断基準は常に一つ、「利用者の安全と健康を守れるか」です。
「手を出してあげたい」という優しさが、知識不足によって「危険な行為」に変わってはいけません。
以下のポイントを心に留めておきましょう。
-
原則医行為でないもの(爪切り等)でも、異常があれば医行為になる。
-
迷ったら自己判断せず、必ず看護師や医師に相談する。
-
喀痰吸引などは、資格と登録がなければ絶対に行わない。
-
家族の要望であっても、法令違反や危険な行為は毅然と、かつ丁寧に断る。
正しい知識を持つことは、利用者様を守るだけでなく、介護職としての皆様自身のキャリアと精神的な安定を守ることにもつながります。
グレーゾーンに直面した時こそ、多職種連携の力を発揮し、チームケアで解決していく姿勢が、これからの介護現場には求められています。
自信を持ってケアにあたるためにも、最新の情報を常にアップデートしていきましょう。
※この記事はAIで検索収集して制作されています。具体的な行為については関係機関に必ず確認してください。








